trois incense

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005:発光する身体に。

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大谷滋子 shigeko oya

プライベートボディケアサロンsogandso
セラピスト、オステオパスリフレクソロジスト
中国伝統民族療法国際ライセンス/本部台湾
東洋西洋のバランス医学の理論を融合させ
自然治癒力、自己調整機能を引き出すため
ひとりひとりの身体と心に触れる日々。

わたしは日々、東京原宿の古いマンションの1室で
1日2名、2~3時間ほどかけて全身の施術を行っています。
クライアントはほぼ女性、年齢は30~60代生活環境はさまざまです。

施術方法は「オステオパスリフレクソロジー」理論に基づいたもので
中国陰陽説とアメリカ自然医学(オステオパシー)のシンメトリー説を融合させた
バランス医学の考えをベースに、さまざま手技をカスタマイズして身体のバランスを調整し
自然治癒力を引き出すためのフルボディオイルの施術になります。

オイルを使用するのは全身細胞の大掃除とメンテナンスのため。
全神経に刺激が与えられ、血行促進や毒素排泄、体液の交換などが
スムーズに行われるようになります。

その日その時の身体や心の状態にはもちろんのこと
クライアントのエネルギーに触れて進めていきます。

施術をする場所はできる限りクリーンでクリアな空間であるように
掃除の後にはキャンドルに火を灯し、お香や香木などを焚きます。
また、シンギングボウルなどを鳴らしながら呼吸を整え集中していきます。

クライアントにはゆっくりお話しを伺いながら、生活習慣、食事、人間関係、
環境、心の状態などによっていまの状況(症状)を紐解いていきます。

その後に身心統合のため手技手法を組み立てて施術をスタート。
直接素肌に触れ施術が始まると滞っていたものがだんだんと動きだします。
その滞りが動き出してうまく流れ出すことでエネルギー(気)も通い出して
お身体そのものが光りだします。

美しさとはこういう事なのだなあ、とその都度感じます。

“身体の現実は心の現実と同じ現象の違った側面”という
東洋思想の“心身一如“をご存知かと思いますが
心と身体は密接に繋がっている、分けて考えることはできない
というその真意を体感することは少ないと思います。

その心身一如を体感するには、
外側へ向いている意識を自分自身の内側に向ける環境を作り
深い呼吸に集中できる場所で、心や身体の緊張や滞りを調整する。

すると五感や五情などがより研ぎ澄まされて、
自分の根っこに繋がるような感覚になるので
停滞感を感じるときにも身心調整することをおすすめします。

その状態は強くてしなる大木のように穏やかでバランスよく
安定して立っているようなそんなイメージでしょうか。

そして、今後サロンなどでの※トリートメントは
代替療法としての身心への効果効用も含め持続性が高いですので
かかりつけの病院に行くように、かかりつけのサロンや治療院を
ご自分で探し定期的な施術を受けることが当たり前になるでしょう。

でも、多くの方は限界まで疲弊した状態でサロン予約をしがち。
やっと!と駆け込むという方もいらっしゃるかもしれませんが、
できればある程度の体力があって元気な状態が好ましいと思います。

その元気な状態でという理由は、オイルを全身に受け入れた上で
身体がそれを吸収できる、代謝できる状態にあるということです。

疲れ切った身体や心にはそれ以前に別のケアが必要となりますし
施術後の好転反応や体力、気力の回復にもお時間がかかります。

このようなお話しをする度、治療学を学んだ際の
「治療に必要なもの」のなかに「患者(クライアント)」も含まれている
ということをいつも思い出します。

治療やケアは医者やセラピストからの一方的なアクションではなく
クライアントの自主性や協力も必要で相互的な療法となります。

私たちはそれぞれが日頃より食事に留意しながら、
セルフケアで感覚器官を整え、運動や睡眠、
自分の好きなことをすることなどで体力気力を維持しています。

その上で定期的なチェック機能として、メンテナンスのひとつとしても
身心の調整をライフサイクルに取り入れていただきたい。

こちらのコラムを読んで下さったみなさんにも、かかりつけサロンやセラピストに出会い
発光しながら自分の根っこに繋がるそのような経験をしていただきたいです。

それでは、今日もまた施術の準備に入ります。みなさんお元気で。

※トリートメント
「代替療法」カテゴリーのさまざまな健康法は、本質的な共通点はあっても多様化しやすいです。
同じメソッドでも術者が違えばカスタマイズも変わります。
利用する際は、相性、タイミング、クオリティが重要になるかと思います。
ご自分の感覚を信じて!

004:香の煙の立つところ

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螺雲 Raun

高野山の真言僧にして大峯葛城を拠点に諸国を遊行する山伏。祈禱道場「火生庵」庵主。有志の行者衆を結ぶ「山人犬の会」主宰。大峯山寺年番住職代僧(平成25年・令和3年)。現在、山伏の山伏による山伏のための動画チャンネル「やまぶしてれび」を準備中。

巷で「法螺吹き」と言えばウソつきと同義だが、我々の仲間の内に「口八丁は山伏のお家芸。必須の職能の一つだ」と真顔でうそぶく者がいる。

曲がりなりにも不妄語戒を唱道する仏教者でもある手前、さすがに大っぴらに虚言を容認するわけにはいかないが、種々の秘法や秘術を伝持し、ロイ(=口伝)をことのほか重んじる我々修験者の世界では、相手がたとい弟子や篤信者であろうとも、機根や機縁が整わない限り、問われたところで正しい答を返すとは限らない。時に、頬被りしてすっとぼけ、時に、はぐらかして煙に巻く。これを「方便」という。

安宅の関で白紙の勧進帳を読み上げる弁慶の山伏ぶりも天晴れなものだが、採灯護摩などで交わされる山伏問答も、本来は問者・答者いずれも即興で丁々発止するのが正しい。持てる知識を余すところなく操り出して得々と、ことさら仰々しく披露するこそ真骨頂というものだ。

乱世をも融通無碍に駈け抜け、時に為政者のもとを渡り歩いて修行を重ねた山伏達にとって、己が修めた行の厳しさや尊さ、身につけた験力の摩訶不思議さを、巧みにアピールしてカリスマを幻出させる「弁才」は、異形・異能の漂泊者として浮世の表裏を生き抜く上で、欠くべからざるテクネーであったに違いない。

ところで、我々が峯に入る時に欠かさず携える物の一つに、線香がある。良質な香のかぐわしい香りはそのまま神仏への供物であるとともに、祈りの空間を浄め、また自身の心と身体を調える。いっぱしの行者なら必ず自分の定番というものがあるもので、手練れの行者の篠懸(すずかけ)からはその匂いが仄かに薫るものだ。

香煙が昇るところ必ず諸仏はお姿を示されるといわれるが、その典拠となるこんな説話が仏典にある。天竺に富那奇(フナキ)と羨那(センナ)という実直な兄弟がいた。二人は自分達の故郷に釈尊をお招きして説法を賜ることを願い、力を合わせて立派なお堂を建立した。しかし残念ながら、巡錫の旅の途にあった釈尊に、なかなかその想いが届くことはなかった。

どうすればおいで頂けるだろう。思案する兄弟は、釈尊の説法の折には必ず香が薫じられることを耳にすると、すべてを投げ打って貴重な香木を集め、山の頂で火を投じる。するとたちまち、えも言われぬ香りを湛えた煙が渦を巻き、雲のごとく四方へと広がっていった。

ふと、辺りに漂う馥郁たる香りに気づかれた釈尊は、「どうやらあの山の向こうからとても良い香りをした雲が湧き上がってくるようだが、なんだろうね」とお尋ねになった。傍らの弟子が、「二人の兄弟がお釈迦様の説かれる法に触れたい一心で、香を焚いているのです」と伝えると、「それでは出向かねばなるまい」と仰せられて、速やかに二人のもとへと向かわれた。なんと剛毅な兄弟。なんて優しい釈尊。本当に良かった良かった。良かったねー、お釈迦様のお話が聞けて。

と、まあこんな具合に、見てきたように物を言う。ご用心ご用心。

003:匂いと想像力の実験

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庄子結香 Shoji Yuko

宮城県出身。絵とデザインのユニット「カレラ」のグラフィック・デザイナーとして、主に書籍デザインに携わる一方で、個人プロジェクトthe fictional mapで、ZINEの制作など好奇心の赴くままに活動(現在は充電中)。

匂いに形はあるでしょうか。記憶の中の匂いを思い出す時、あるいは夢の中で現実にない匂いを嗅いだ時、それを他の人に伝える時にあなたはどんな表現をするのでしょうか? 私はある日突然“匂いの形”を知りたいという欲求に取り憑かれました。

嗅覚の器官である「鼻」は顔の中で唯一常に開いている器官です。これは匂いが「生命に関わる重要な情報」であるということを意味しています。幼い頃からアレルギー性鼻炎持ちの私にとって「匂い」は未知の領域でしたが、2013年の秋、ある大学図書館で閲覧した18世紀のフランスの古書の匂いが気になり、それを調べるうちに匂い自体に興味を持ちました。生物にとって重要な器官である嗅覚を使った愉しみに耽溺して、最終的にそれを他の人と共有するためにワークショップをすることになりました。

このワークショップのヒントになった出来事があります。香料や香水など匂いを収集し始めるとそれを誰かに嗅いでほしくなりました。そのうちのひとりの友人がある匂いを嗅いで、すぐさま「宇宙人をつかまえて手術するためにおなかを開いた時の匂い」と言いました。私の中で“匂い”と“イメージ”と“フィクション”が結びついた瞬間でした。その宇宙人の匂いの正体はイソブチルキノリンという合成香料で、香水ではレザーノート(革のイメージ)に用いられています。それまでただぼんやりと匂いを嗅いで良い気分になっていた私は、この発見と興奮を形にしたいと思ったのです。

匂いから喚起される語彙の幅は人によって差があります。匂いを表現する時につい抽象的な形容詞)「甘い」「さわやか」など)を使いがちですが、ソムリエのように名詞(「濡れた子犬」や「暑い日のタイヤ」など)の表現を使うとより具体的で客観的な表現になり、その言葉が非現実的であったり、組み合わせが突飛だったりするほど奥行きが出てそこにフィクションのイメージが生まれます。また、「匂い」は記憶を喚起するため、かつて遭遇した人や場所など過去に向かいがちですが、匂いから想像したイメージを、経験を足がかりにさらに「経験したことがない」世界に飛ばすことも可能です。

物語を読む時、たとえばそれが昔話であっても私たちは言葉を媒介に「おじいさんとおばあさんが桃を拾った」世界をイメージ(想像力による経験)をすることができます。私が試みた実験は、言葉を匂いに置き換えたものでした。これを応用すれば、聴覚、味覚、触覚など、あらゆる感覚で物語を読むことができるのです。それは目を覚ましながら見る夢のようなものですが、これを言葉にすることで私たちは主観(経験)を共有することができます。生命にとって大事な器官である嗅覚を精神の遊びに使う後ろめたさを感じながら、それでも私は感覚の冒険をやめられないのです。


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the fictional map presents
Lo-fi Nose Lab
嗅覚と想像力の実験室

音楽を聴くように、小説を読むように匂いを愉しむ
嗅覚と想像力の自動書記

嗅覚は即時にイメージを喚起する装置だ。
生命に関わる危険なサインを判別する高性能な器官は、
現代の平穏な日常の中で想像力を伴い暴走する。

嗅覚を媒介して発生したイメージの実験は、2016年から2018年まで、東京、京都、仙台、前橋などで行われた。
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▶︎参考文献:「匂いの帝王 : 天才科学者ルカ・トゥリンが挑む嗅覚の謎」チャンドラー・バール 著/金子浩 訳(早川書房)

メイン写真:ワークショップで用意された10種類の匂いの入った瓶
下部写真:後日ワークショップで収集したイメージを冊子にして、それに添付した“宇宙人の匂い”(ワークショッップで使用したNo.4の匂い)

002:人が求める究極の香りとは

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岩佐一史 iwasa kazushi

株式会社一 代表取締役 合香師
4月18日(日本お香の日)誕生 香川県出身 龍谷大学仏教学科卒業 
古来より植物を調合し創り出すことを合香術(ごうこうし)と云います。
御香の香りに物語を添え、記憶の語り部となるような商品開発を目指しています。
講習履歴 France Japan Tours Festival・ヴィランドリー城・日本各寺院など

お線香とは、一般的にはお仏壇・お墓で仕様するという認識があり、あまり明るいイメージは無いかもしれません。
しかしその歴史はとても古いモノであり、古来は医香同源という言葉もあり医学と精通していました。
漢方薬の原料となるような和漢生薬を数種類調合して香りを生み出すことがお香だったのです。 
もちろん神仏に対するお供えの意味もありましたが、体に良い植物を調合した香りを鼻から吸引することにより、
あらゆる効果も期待していたそうです。
実際に中国の文献を見ると、寿命を伸ばす香・万病を治す香・天から光が差し神が降りてくる香・死者を甦らす香など、
現代では信じられないような効果効能がある御香があったそうです。
このような御香を文献上で調べたり、現代に合わせて開発したりという仕事をしているのですが、
常に思うことは、人類が共通して「良い」と感じる香りは何であろうかということです。

昔の人たちは、現代よりも香りに追求心がありました。
あらゆる記録・研究があるのですが、恐らく重要なキーワードは2つ
【脇】と【記憶】です。
中世ヨーロッパでは、女性が男性にプロポーズをする時に、リンゴを脇に挟んで汗を染み込ませて、
脇に匂いに染み込んだリンゴをプレゼントして想いを伝えていたそうです。
脇=フェロモンということですね。
古来より媚薬の代表的原料である麝香(麝香鹿の雄の生殖器周辺から得られる分泌物)の香りも
人の脇の香りに近いと云われています。
麝香は鎮静作用も強い為、日本では赤ん坊の夜泣きの薬や御香の原料としても使用されます。

もう一つが記憶です。 
フランスの作家マルセス・プルーストの「失われた時を求めて」の中で
香りにより幼少期を想い出す場面があり、このことから、
特定の匂いはそれに結びつく記憶や感情を呼び起こすことをプルースト効果と呼びます。
ホモ・サピエンスは鼻の構造上、香りと記憶は結びつきやすいのです。

私が御香の道を目指すきっかけとなったのは、伽羅という1g数万円とする特殊な木の樹脂の香りを聞いたことでした。
この世にこんな素晴らしい香りがあったのかと感動しました。
伽羅とは、仏教で使用する代表的な御香【沈香】の最上級品のことです。
古来より、天上と人とを結ぶ香り・至上、幽玄の香りとも云われるぐらい素晴らしい香りです。
沈香(伽羅)の香りこそ究極の香りなのかもしれません。

このような知られざる香りの世界を世に広めたいという想いから御香の研究を始めたのですが、
今になって思うと、私に色々なことを教えてくれた亡き祖父が常にお仏壇に良いお香を焚いたので、
その時の想いと記憶が結び付いたのかもしれません。

001:薫りと光と

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風間重美 emi kazama

trois incense店主。デザイナー・イラストレーター。東京下町で生まれ育ちましたが、縁があって出羽三山のお膝元山形県鶴岡市に移住して3年と半年。出羽三山の一つである月山の佛生池小屋に嫁ぎ、夏の間3ヶ月間は山の上で暮らしています。

はじめまして。コラム第一回目が店主となり恐縮ですが、ご挨拶を兼ねて書かせていただければ幸いです。
昨今の状況でステイホームという言葉が定着しましたが、私は今となっては山小屋の人間になりアクティブに見られがちですが、仕事を始めてからというもの日がな一日パソコンの前に座っています。現在も夏山期間外はそのような生活状況です。タバコは嗜まないので、日中はお香や精油を焚いて気分転換をしています。作業の始まりにはすっきりとした香りを焚き、食後のデザートがわりに甘い香り、心がざわつくときには清めのお香、気を緩めたいときにはキャンドルを灯し揺らぐ光を見つめます。デスクの上でできることですが、それだけでも随分と心に作用することがわかります。友人が訪ねてくるときには、玄関でお香を焚いて出迎えます。
ご縁を頂戴し、仏道の修行に入らせていただいた時期がありました。日々何気なく焚いたり仏壇に備えていたお香の大切さを目の当たりにし、深く考えるきっかけをいただいたように思えます。
日本各地の神社仏閣の集まる土地にはお香の専門店が多くありますが、出羽三山の麓にはそのようなお店がありません。いつかは路面店を開きたいと思いながら、まずはネットショップから始めることにしました。
今は少しづつとなっておりますが、心に響く香りや光をご紹介してゆければと思っております。
またこちらのコラムは今後、香りや光の先人に寄稿していただくページになります。楽しみにお待ちくださいませ。