trois incense

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002:人が求める究極の香りとは

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岩佐一史 iwasa kazushi

株式会社一 代表取締役 合香師
4月18日(日本お香の日)誕生 香川県出身 龍谷大学仏教学科卒業 
古来より植物を調合し創り出すことを合香術(ごうこうし)と云います。
御香の香りに物語を添え、記憶の語り部となるような商品開発を目指しています。
講習履歴 France Japan Tours Festival・ヴィランドリー城・日本各寺院など

お線香とは、一般的にはお仏壇・お墓で仕様するという認識があり、あまり明るいイメージは無いかもしれません。
しかしその歴史はとても古いモノであり、古来は医香同源という言葉もあり医学と精通していました。
漢方薬の原料となるような和漢生薬を数種類調合して香りを生み出すことがお香だったのです。 
もちろん神仏に対するお供えの意味もありましたが、体に良い植物を調合した香りを鼻から吸引することにより、
あらゆる効果も期待していたそうです。
実際に中国の文献を見ると、寿命を伸ばす香・万病を治す香・天から光が差し神が降りてくる香・死者を甦らす香など、
現代では信じられないような効果効能がある御香があったそうです。
このような御香を文献上で調べたり、現代に合わせて開発したりという仕事をしているのですが、
常に思うことは、人類が共通して「良い」と感じる香りは何であろうかということです。

昔の人たちは、現代よりも香りに追求心がありました。
あらゆる記録・研究があるのですが、恐らく重要なキーワードは2つ
【脇】と【記憶】です。
中世ヨーロッパでは、女性が男性にプロポーズをする時に、リンゴを脇に挟んで汗を染み込ませて、
脇に匂いに染み込んだリンゴをプレゼントして想いを伝えていたそうです。
脇=フェロモンということですね。
古来より媚薬の代表的原料である麝香(麝香鹿の雄の生殖器周辺から得られる分泌物)の香りも
人の脇の香りに近いと云われています。
麝香は鎮静作用も強い為、日本では赤ん坊の夜泣きの薬や御香の原料としても使用されます。

もう一つが記憶です。 
フランスの作家マルセス・プルーストの「失われた時を求めて」の中で
香りにより幼少期を想い出す場面があり、このことから、
特定の匂いはそれに結びつく記憶や感情を呼び起こすことをプルースト効果と呼びます。
ホモ・サピエンスは鼻の構造上、香りと記憶は結びつきやすいのです。

私が御香の道を目指すきっかけとなったのは、伽羅という1g数万円とする特殊な木の樹脂の香りを聞いたことでした。
この世にこんな素晴らしい香りがあったのかと感動しました。
伽羅とは、仏教で使用する代表的な御香【沈香】の最上級品のことです。
古来より、天上と人とを結ぶ香り・至上、幽玄の香りとも云われるぐらい素晴らしい香りです。
沈香(伽羅)の香りこそ究極の香りなのかもしれません。

このような知られざる香りの世界を世に広めたいという想いから御香の研究を始めたのですが、
今になって思うと、私に色々なことを教えてくれた亡き祖父が常にお仏壇に良いお香を焚いたので、
その時の想いと記憶が結び付いたのかもしれません。